俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない

 どうしてだろう。断ることもできたはずなのに、私はそうしなかった。

 実家の居心地が悪いだとか、彼のマンションの方が出勤に便利だとか、理由はいろいろある。

 だけどそれだけじゃない、自分でもコントロールできない感情が、私を深澄さんのそばに留めさせたがっていた。

 深澄さんは不敵に片側の口角を上げ、ようやく私から離れて運転席に戻った。

「かわいくない返事の仕方だけど、まぁ許してやる」
「ちょっと、こっちがどれだけ勇気を振り絞って……!」

 思わず本心を暴露してしまいそうになり、両手で口元を覆う。

 ちらっと深澄さんの方を見ると、にやにやと締まりのない笑みを浮かべた彼が言う。

「今の失言はかわいかった」
「あの、別に違いますからね! 勇気っていうのは別に、特別な意味を含んでいるわけじゃなくて!」
「往生際の悪いヤツ。ま、その分攻略し甲斐があるけどな」

 慌てる私を鼻で笑い、深澄さんがようやくエンジンをかけて車を出発させる。

 攻略し甲斐って……私のこと、ゲームの敵キャラかなにかと思ってる?

 やっぱり、深澄さんの本心は読めない。

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