俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない

「ちなみに今日はいったん実家に帰って、荷物を整理しようと思います」
「了解。お父さんに邪魔されないよう祈ってる」

 父の話を出されると、途端に気が重くなる。

 私は遠い目をして車窓の方を向いた。

「ギター片手に邪魔される光景しか浮かびませんけどね……」
「お前も歌いながら怒ってみたら? ミュージカルみたいにうまく話がまとまるかも」
「他人事だからって適当なこと言わないでください」
「ダメか。ま、すぐには和解できなくてもきっと時間が解決する。結婚したらもちろん俺も歩み寄る努力をするつもりだし、そんなに暗い顔するな」

 深澄さんはどこまで本気かわからないけれど、そう言ってもらえただけでふっと気持ちが軽くなった。

 家族の問題を一緒に背負ってくれる夫の存在って、もしかしてすごく心の支えになるのかもしれない。

 そう思いながら運転中の深澄さんの横顔を眺めると、胸がトクンと優しい音を奏でる。

 彼との契約結婚……不安もあるけど、できればうまくいくといいな。

 胸の内でそう呟きシートに深く身を預けると、夜勤疲れと車の心地よい揺れで、間もなく睡魔に飲み込まれていった。


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