俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない
そう言ったものの、父が顔を上げるそぶりはない。
やっぱり、ダメか……。
肩を落として店の出口へ向かい、自動ドアから外に出たその時だ。
「光里」
背後から父に呼ばれ、パッと振り返る。
ゆったりと歩み寄ってきた父は、唐突に「手を出して」と言った。
「えっ?」
首を傾げながらも言われたとおりに片手を出すと、手のひらの上にさっきまで父が持っていたセスナ機の模型が置かれる。
「中、見てみろ」
「中?」
全長十五センチにも満たないセスナ機なので、目を凝らさなければよく見えない。
しかし、よく見るとコックピットの窓から小さな人間がふたり覗いていることに気づく。
ひとりは制服姿のパイロット、そしてもうひとりは……白いベールをかぶったウエディングドレス姿の女性だ。
模型のセスナに乗れるほど小さいサイズの人間なのでのっぺらぼうではあるが、ふたりともなんとなく幸せそうに見える。
これってもしかして……。
「深澄さんと私……? お父さんが作ったの?」
思わずそう尋ねると、父はくしゃっと目元の皺を深めて苦笑した。
「そう。せっかくだから新居に飾れ。ま、要らんなら捨ててもいいが……」