俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない
結婚する前に親子のわだかまりが解けてよかった。
深澄さんが帰ってきたら、ミュージカルを演じる必要はなかったって教えてあげよう。
そんなことを考えながら歩きだし、店から数十メートル離れた頃。
不意に涼野模型店の方から、ギターの音が聞こえてきた。
馴染みのあるそのメロディは、『パパパパーン』という音色が印象的な、結婚式の定番クラシック曲。
まさかと思って振り返ると、ギターを抱えた父が私を見送りながらギターをかき鳴らしていた。
「恥ずかしいってば……」
平日の昼下がり、人通りはそんなに多くないものの、買い物中の主婦や犬の散歩のご老人がキョトンとしながら、演奏中の父を見ている。
くるりと方向転換した私は、他人のフリをしながらそそくさと実家を離れるのだった。