京都鴨川まねき亭~化け猫さまの愛され仮嫁~
(ウサギって抹茶ラテ飲めるんだぁ……)

 いや、そもそもウサギはしゃべらないのだ。

 段々とこの状況に慣れつつある自分が怖くなる。
 細かいことを気にしだすと頭が爆発しそうなので、璃世はこれ以上深く考えないことに決めた。『木を見て森を見ず』にならないよう気をつけねばと思いつつ、来たときから抱いていた疑問を口にする。

「あの……ここって、どういうお店なんですか?」
「は? そんなことも知らなかったのか⁉」  
「え! そんなことも知りませんでしたの⁉」

 さっきまでいがみ合っていたのが嘘のようなシンクロぶりに、璃世の目が丸くなる。
 
(それを聞く前に突然迫ってきたのはどこのどいつよ!)

 腹の中で憤ったけれど、これ以上面倒な事態になったら困る。とにかくここがどういうお店なのか話だけでも聞いて、それからきちんとお断りしよう。このままなにも聞かずに逃げ出したら、きっと寝覚めが悪くなる。一日の活力のために上質な睡眠はかかせない、というのが璃世の信条なのである。

 璃世は膝の上でギュッと手を握りしめ、口を開いた。

「私は、まねき亭というお店に住み込みで雇ってもらえると聞いただけなんです」

 社員寮などの福利厚生が充実している職場なのだと思っていた。それならお給料がそこそこでも、贅沢をしなければ生きていける。お正月には弟にお年玉も上げられるかもと期待したのだ。
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