京都鴨川まねき亭~化け猫さまの愛され仮嫁~
「なにを期待したかしらないが、夫婦(めおと)になるために必要なのは、たった一回、互いの生気を交換することだけだ。一瞬で終わる」
「せ、生気⁉」

 なんだかとても恐ろしいことを聞いた気がして、血の気がサーっと引いていく。そんな璃世を見て千里が「ふっ」と息を吐くように笑った。

「人でいう“接吻”というやつだ」
「せっ……ぷん⁉」
「したことないのか?」

 平然と聞かれて、璃世は絶句する。

(あるわけないでしょ!)

 心中で思いきり叫んだ。男女交際をしたこともないのに、そんなものあるわけない。
 すると千里は満足げに口の端を持ち上げた。

「情報屋の言った通りだな」

 千里がつぶやいた声は、璃世の耳にハッキリ届いた。なにせこの距離だ。

「情報屋って……」
「細かいことは気にするな」

 そう言った千里が顔を近づけてくる。顔を背けようにも、千里の手によって固定されていて無理。
 心臓が早鐘を打ち、耳の奥でドクンドクンと血液の波打つ音がする。

(もうダメだ……!)

 唇があと数ミリで触れ合う――というそのとき。

「いつまで寝ていらっしゃるの⁉ アタクシ待ちくたびれましてよーー!」

「スパーン」と勢いよく襖が開く音と同時に、威勢のよいその声が入ってきた。声のする方に視線を向け、璃世は目を丸くする。

「え、外国人⁉」

 そこにはまるでおとぎ話から抜け出してきたかのような、金髪赤眼の美少女が立っていた。


< 22 / 45 >

この作品をシェア

pagetop