京都鴨川まねき亭~化け猫さまの愛され仮嫁~
「クァーッ!」

 けたたましい鳴き声と共に、頭上でバサバサという羽音。
「なんだっ!」「やめろぉ!」というひしゃげた声に、璃世は恐る恐る目を開けた。するとそこには一羽のカラスが。まるで璃世のことを守ろうとしているかのように、バケモノの頭上で羽ばたいている。

 よくわからないけれど助かった。今のうちに逃げなければ、と思うのに立ち上がれない。足に力が入らないのだ。

(う、うそ⁉ どうしよう……!)

 焦る璃世の目の前で、黒いもの同士の攻防がくり広げられている。
 カラスは羽ばたきながら何度もバケモノの頭を突いていたが、そのうち一体がカラスを手で思いきりはたき落とした。地面に落とされたカラスを、すかさずもう一体が踏みつける。

「あっ!」

 思わず声を上げたら、バケモノがゆっくりと顔を上げた。眼球など見当たらない真っ黒な目が、舌なめずりするかのように璃世を見る。喉がヒュウッと音を立てた。

 黒い手が璃世に向かって伸ばされた、その刹那。

 間を割って入るように人影が飛び込んできた。

 背中を向けているから顔は見えない。紺色の着物をたどって見上げると、頭の上に黒い毛に覆われたふたつの耳が。

「千…里、店長……」
「店長はいらん」

 背中を向けたままそう返ってきた。彼の手はバケモノの腕を掴んでいる。
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