京都鴨川まねき亭~化け猫さまの愛され仮嫁~
「まったく……客人の依頼であの白ウサのところへ行ってみれば、おまえの姿がない。迷子になるのが趣味なのか?」
「そんなわけ」
「じゃあ特技か」
「なっ!」

 揶揄されたことに言い返そうと璃世が口を開いたとき。

「邪魔をするなぁぁあっ!」

 雄たけびと同時にもう一体のバケモノが飛びかかってきた。
 反射的に「あぶないっ!」と声を上げた次の瞬間、千里はバケモノの腕を掴んでいるのとは反対の手を振り上げる。そして目のも止まらぬ速さで、指先から伸びた長く鋭い爪でバケモノを切り裂いた。

「グァァァッ!」
「邪魔ものはおまえたちだ」

 胴体を真っ二つに割られたバケモノは、その割れ目からサラサラと砂のように崩れ、あっという間に消滅した。

「俺の嫁に手を出した罪は償ってもらうぞ」
「ま、待て! わ、悪かった、おまえのものだなんて知らなかったんだ。もう手を出さない。おとなしく消えるから離してくれよぉ」

 腕を掴まれたままのバケモノは、必死に命乞いをした。そのわざとらしい声と言葉に、璃世は絶対嘘だと心の中で唱える。
すると千里は「ふっ」と短く鼻で息を吐いた後、口を開いた。

「本当か?」
「あ、ああ……本当だ! 金輪際この女には近づかないぃ」
「そうか、わかった」

 驚きで目を見張る璃世。まさか千里がバケモノの言葉をすんなり信じると思わなかったのだ。
けれど千里はあっさりバケモノを解放した。バケモノが再び襲いかかってくるのではと、一瞬緊張した璃世だったが、バケモノは逃げるようにどこかに消えてしまった。
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