京都鴨川まねき亭~化け猫さまの愛され仮嫁~


 どれくらいそうしていただろう。

 何時間もたったような気もするが、太陽はまだその姿をかろうじて地上に残している。きっとせいぜい数分ほど。けれど立ち上がる気力がわかない。

 あのスーツケースには貴重品こそ入っていなかったけれど、生活必需品や思い入れのあるものがたっぷり詰まっていた。
 愛用の目覚まし時計、肌質にあったコスパのよい化粧品。着替えもそのひとつ。あらたまった場面で着られるようなシンプルな紺色のワンピースが入っているので、どこかでそれに着替えようと思っていたのに――。

「完全に詰んだ……」

 よもや二十一にして、住所不定無職になるなんて。
 天国の父と母――いや、それよりも弟になんて言おう。たった一人の家族なのだ。

 生意気だけど姉思いなところもある弟がこのことを知ったら、大学の勉強もそこそこにアルバイトに励みだすに違いない。どうかしたら辞めると言いだすこともある。

 弟には大学をきちんと卒業してほしい。それを励みにこれまで頑張ってきたのだ。

 だからと言ってこれから自分がどうすべきなのかどうしたらいいのか、皆目見当もつかない。暮れ行く古都がじわじわと滲んでいく。
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