京都鴨川まねき亭~化け猫さまの愛され仮嫁~
 泣いたってなにも変わらない。璃世はそのことをよく知っている。

 腕でゴシゴシと目元を拭い、立ち上がろうとしたそのとき。
 足にさわさわとなにかが触れる。見た瞬間、「あ!」と声を上げた。

「さっきの!」

 茶トラの子ネコが「ニャー」と鳴いた。『お腹がすいた』とでも言っているのだろうか。スリスリと擦りつけてくる子ネコの頭をなでてやる。

「ごめんね……あなたに食べさせるものはなにも持ってないのよ……」

 そう口にすると、子ネコがテテテと離れていった。

(わかってくれたのかな……)

 ほっとしたような寂しいような複雑な気持ちだ。けれどどうしようもない。明日から自分自身を養っていけるかすらあやしいのだから。

 少し申し訳なくなりながら、茶トラ柄のしっぽを見送っていると、子ネコがピタリと足を止めて振り返った。こちらをじいっと見つめてから再び「ニャー」と鳴く。

「え、なに? もしかして……ついて来いってこと?」

 まさかね――と思った瞬間、もう一度「ニャー」と、さっきより大きな声で“呼ばれた”。

 璃世は立ち上がり、思い切って子ネコの後を追いかけることにした。

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