生まれ変わっても、君でいて。
 飛行機に乗ったことは人生で二回くらいしかないけれど、私は昔の記憶をなんとか瞼の裏で再生してみる。
「へぇ、あんな感じなんだ。三途の川とかじゃないんだね」
「そうだね。どっちかと言うと、空だね」
「へぇ、なんかその方がいいね」
 他人事みたいに返すと、赤沢君は目をぱちくりとさせてから、「変わってんね」と一言つぶやく。
 多分その「変わってる」という言葉には、色んな意味合いが含まれているのだろう。
 余命宣告されたのに、どうして他人事みたいなのかとか、死が怖くないのかとか。
 でもそれを、赤沢君は口にしない。
 沈黙を埋めるように、私はもうひとつ気になっていることを口にした。
「赤沢君は、その能力のことを、どう思ってるの?」
「どうって……。嫌に決まってるじゃん。良い人生も不幸な人生もどっちもあったし、もう疲れたよ」
「そっか。じゃあ赤沢君は、色んな人の人生観が分かるんだ」
 そう切り返すと、赤沢君は再び目をぱちくりさせて、こっちを見ている。
 いい人生もそうじゃない人生も、赤沢君はたくさん経験してきたんだ。
 それはきっととても大変なことだったろうけど……。
「ほら、人って結局、自分が体験したことのある痛みしか、分かってあげられないじゃん」
「まあ、たしかに」
「赤沢君くらい人生経験豊富だと、自分の価値観広げられそうでいいよね」
 もし私も夢花の人生を経験出来たなら、分かってあげられる痛みがあっただろうか……。赤沢君には失礼かもしれないけれど、その能力を少し羨ましくも思った。
「その能力って、どんな人に備わってるの?」
「強い未練を残された側に、極稀に移っていくらしい。俺は偶然その超少数派に入っちゃっただけだよ。何でだろうね、前世のこと忘れて生きるなよっていう念なのかな」
「念って……」
 強い未練を残された側……。それを聞いて、少しドキッとした。
まるで連鎖するように、人が人を思う気持ちでこの能力は受け継がれているのなら、夢花に同じ現象が起きていてもおかしくない。
「私の未練で、夢花にも赤沢君と同じ能力が備わっている可能性って、あるのかな」
「いや、相当その可能性は低いと思うけどね……。確率的な意味で」
「そっか……」
 赤沢君は私の不安な発言を一蹴し、遠くに視線を向ける。
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