生まれ変わっても、君でいて。
 家で話せばいいようなことを、写真付きでわざわざ送ってくるのだ。
 私とのメッセージアプリまで、SNS投稿の場所にしないでほしい。
「分かったって。忙しいからもういい?」
「ああ、おやすみ。粋」
「うん」
 ドアが閉まり、階段を下りていく音を確認してから、私は今度こそ深いため息を吐いた。
 父親は、再婚してから凄く変わったと思う。
 よく笑うようになったし、家にも早く帰ってくるようになったし、なんというか全体的にゆるくなった。
 若くて綺麗な奥さんをもらうと、こうも人は変わるものなのか。実母との思い出はそんなに残っていないけれど、心底同情してしまう。
 この家だって、ほとんど母親の趣味全開でデザインされてるし……。こんなに可愛らしいお城みたいなデザインの家に膨大な資産を投資して、父親は本当に何も思っていないのだろうか。
 いつかこの家を売りたいと思っても、個性的過ぎてなかなか売れないと思う。
 この前、父親が一週間出張に行ったときなんて、母親は毎晩父親に電話をしていた。
 いったい何をそんなに話すことがあるのかと思うほど……。
『粋は電話嫌いだよね。すぐ切っちゃうんだもん』
 ふと、いつかの夢花のぼやきが頭の中に浮かんできた。
 高学年になってスマホを手に入れた私たちだったけど、私は電話に出ることが嫌いで、夢花との電話でさえすぐに切ってしまっていたのだ。
 目の前にいない人と会話することが、どうしても苦手だった。
 自分の声が少し低くて、表情と一緒じゃないと不機嫌に感じ取られてしまうことがあったから。
 たった一度だけど、全然怒ってもいないのに、電話越しで友人に『なんか機嫌悪い?』と言われたことが、地味に刺さっているのかもしれない。
 それ以来、電話に出るときは自分のテンションより少し高めにしなきゃと思うようになり、それがすごく窮屈で嫌だ。それに、沈黙の時間もすごく怖い。だから、電話は嫌い。
 夢花に『電話嫌いだよね』と言われたとき、説明が面倒だった私は、『だって別に話すことなくない? 家でも学校でも会えるし』と冷たく返したのを覚えている。
 夢花はあの時、ちょっとだけ悲しそうな顔をしていた。
 面と向かって話せないこともあるのだと、その時の私は想像したこともなかったから。
「……電話、か」
 ほとんど、勢いだった。
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