生まれ変わっても、君でいて。
 天音がほっとしたように声をあげ、近くに偶然いた秦野が、八雲に飛び掛かった。
「うぉー! 八雲ー! 無事来られてよかったなあー!」
「痛いし暑苦しいから離れて」
「期末試験に向けて俺がテスト対策にまとめたノート全部見せてやるかな!」
「いや、間違ってそうだからいい」
 秦野君のことをクールにいなして、八雲は生徒の視線を集めながら席に着いた。
 何か声をかけたほうがいいと分かっているものの、こんなに注目されていると、秦野君のよう強引には話しかけられない。
 困ったようにただじっと視線を送っていると、ふと八雲がこっちを向いたので、視線が重なった。
「あ、いた」
 八雲は目が合った瞬間声をあげて、私の方にずかずかと近寄ってきた。
 な、何をするつもりなんだろう……。
 八雲に教室で話しかけられることは今までほとんどなかったので、なぜか身構えてしまう。
「粋。これ面白かった」
 戸惑いながら視線を泳がせていると、八雲は私の下の名前を呼んでから、私が貸した漫画を差しだしてきた。
 化粧品のショップバッグに入った十冊の少年漫画は、入院中に暇にならないようにと後日持って行ったもの。
 渡した時は反応が薄かったくせに、全部読んでくれたんだろうか。
「続き持ってきてよ、明日」
「いいけど……、テスト期間なのに余裕だね」
「まあ、高校生のテスト内容なんて、そう大きく変わらないしね」
 八雲のペースに巻き込まれ、何気ない会話をしているものの、横の三人からひしひしと視線を感じている。……とくに、えりなと祥子から。
「ねぇ、二人付き合ってんの?」
 嫌な予感は的中するもので、祥子がニヤニヤ笑いながらそう問いかけてきた。
 ……やめて。すごく嫌だ。
 八雲への思いがまだこんなにまとまり切っていない複雑な時期に……、このいじりはキツい。自分の感情を、勝手に外部にかき回されたくない。
 「そんな訳ないじゃん」と笑いながらすぐに流さないといけないのに、言葉が出てこない。
 そんな私を横目に、八雲は「え?」と不思議そうな声をあげた。
「だったら何?」
「は……」
「付き合ってないけど、だとしても何?」
 関係なくない?とまで言っていなくても、目がそう言っている。
 八雲に無表情で問い詰められたえりな達は、予想外の反応に目を泳がせたじろいだ。
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