生まれ変わっても、君でいて。
 えりな達がそれ以上何も言ってこないので、八雲はすっと視線を私に戻して、「じゃあ、明日漫画よろしく」と言って席に戻っていった。
「何アイツ……ガチで感じ悪……」
 祥子が苛立ったように横でつぶやくと、えりなも「ね」と小声で相槌を打つ。
 私は、なぜかうるさくなる心臓に、ひとり戸惑っていた。
 もっと言うと、病室で手を握り合ったあの日から、ずっと心臓がおかしい。
 八雲のことで頭がいっぱいで、彼の一挙手一投足に目がいってしまう。
 こんな感情を抱いたって、意味ないのに。
 人を好きになる気持ちなんて、私が一番抱いてはいけないというのに。
「そ、そんなことよりさ、大晦日の予定とか立てようよ! 今年こそ出雲大社皆で行きたいね」
 気を利かせたのか、天音が話題を一気に変えるように、手をパチンと叩いた。
出雲大社までは少し遠出だけど、大みそかには友達と夜遅くまでいることも許される場所だ。
 しかし、私はその発言に、ビクッと肩を震わせ、さらに動揺してしまった。
 そうか、もう年末が近づいていたのか……。
 去年は何とか断ったけれど、今年はどうしよう。一気にそんな感情で埋め尽くされた。
 八雲への気持ち、夢花との過去、自分の体の限界……。
 色んなことが複雑に絡み合って、私はとてつもなく自分の体が重くなっていくように感じた。
 出雲大社は私にとって……、辛い過去を思い出させる場所だ。思い出さないように気を逸らそうとしたけれど、頭の中に昔の映像が流れ込んできてしまった。



 私と夢花の関係は、中学一年生になっても全く変わらなかった。
 恋愛ごとには一切関心がなく、部活にも入らずに、放課後になったら私の部屋で漫画を読み尽くす。
 私にはそれなりに新しい友達はできたけど、夢花はそこまで交友関係を広げていないようだった。
 クラスが違ったため詳細は分からないけれど、夢花は相変わらず影を薄めてひっそり過ごしているみたいだ。
「ねぇ、粋。最近無理してない?」
 いつも通り部屋で漫画を読んでいると、夢花が少女漫画をパタンと閉じて問いかけてきた。
 何の脈絡もない質問に、私はただ戸惑い、漫画を見開きで持ったまま目をぱちくりとさせる。
「え……何、突然」
「野球部の菅野(すがの)君に、大晦日に出雲大社行くの、誘われたんでしょう? クラスの子から聞いたよ」
「ああ……、何だそんなこと」
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