ひと夏のキセキ
そのことを私はまだ遥輝に伝えていない。


伝えられるはずがない。


伝えたら遥輝は私から離れていく。


だから言いたくない。


ずっと遥輝と一緒にいたいから。


自己中だと分かってる。


遥輝が傷つくことを知ってるのに、余命を隠して一緒にいるだなんて、ひどいことだと思ってる。


でも…。
 

遥輝のことが好きで好きで、どうしようもない。


離れたくない。


ずっと側にいたい。


「好きだよ…遥輝…。ずっと一緒にいて…?」


自分勝手な女でごめんなさい。


遥輝と距離を置く選択なんてできっこない。


「……頼むから、どこにも行くな。俺のそばからいなくなるな」


「……うん…」


過去と重ね合わせて苦しそうにしている遥輝を、苦しみから解放してあげることは私にはできない。


なのに口先だけで頷いてしまう。


「約束な」


「……うん」


ごめんね、遥輝…。


遥輝はいつも約束を守ってくれるのに、私は守れない約束をかわしてしまった。


遥輝のことを傷つける選択をしてしまった。


遥輝のことが好きだから。


絶対に離れたくないから。


ごめんね…。


終わりがある恋なんて始まらなければよかった。
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