ひと夏のキセキ
「…もしかしてキミが絢の彼氏?」


お父さんが背筋とスーツの襟元を正して問いかける。


さっきまで項垂れていたのに、遥輝の前では厳格な父親っぽくしちゃって、おもしろいなぁ。


「…そうです。絢さんのお父さんですよね?初めまして。神田遥輝です」


さすがは遥輝らしく、状況理解が早いしめちゃくちゃ愛想も良い。


いつもの無愛想な遥輝はどこに行っちゃったんだろうというくらい、物腰も表情も柔らかい。


遥輝もこんな顔するんだ。


私に向けてくれる表情とはまた違った表情で新鮮だ。


「ノックもせず入ってお邪魔しちゃってすみません。出直しますね」


「いや、大丈夫だよ。絢も私と喋るより遥輝くんと喋るほうが楽しいだろうし。ゆっくりしていって」


そんな遥輝を気に入ったのか、お父さんは安心した様子でいる。


「じゃあ絢。また時間空いたら来るから」


「もう帰っちゃうの?せっかく来てくれたのに」


少しくらい遥輝とも話して帰ればいいのに…。
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