ひと夏のキセキ
「だから1回顔上げろって。そんなに俯いてたら首痛めるぞ」


「…遥輝が帰ったら顔上げるね」


「ったく。お前はホントに頑固だな」


口では呆れたふうに言ってるけど、頭を撫でる手は優しい。


そんなことされたら泣いちゃいそうだ…。


「遥輝もなかなか頑固だよ…。だって絶対帰らないでしょ…」


「よく分かってんじゃん。このまま話が終わるのはお互い嫌だろ?」


「…そうだけど……」


私は、どうするのが正解なんだろう。


遥輝は今何を考えてるんだろう。


「……さっきの発言、なかったことにしてって頼んだら遥輝はどうする?」


「理由を聞く」


「…真意を話す勇気がないって言ったら?」


珍しく遥輝が黙り込んだ。


鉛のように重くて嫌な沈黙が流れる。
< 165 / 353 >

この作品をシェア

pagetop