ひと夏のキセキ
「ガキのクセに心配してんじゃねーよっ」  


ワシャワシャワシャっ!と髪を乱雑に撫でられ、思わず顔を上げる。


「もう…」


「うわー、目パンパン。泣きすぎだろ」


「っ!遥輝のバカ!!」


ありったけの力で遥輝の胸を押し返す。


遥輝は、キュッと口角を上げて意地悪な顔をした。


いつもと変わらないその表情に安堵する。


「……お前がいなくなった時に俺がどうなるとかはさ」


また、静かに穏やかに話が続く。


「お前がいなくなってから考えるよ。それに、お前が死ぬまでに大喧嘩してお互い大嫌いになってるかもしんねぇじゃん?そしたらノーダメだし?」


「…もう…何それ…」


「お、やっと笑った」


真面目に聞いて損しちゃった。


でも、きっと遠回しに“お前は余計な心配すんな”って言ってくれてるんだろうな…。


「まぁ何にせよ、未来のことなんか考えるだけ無駄ってことだ。たしかにお前の言う通り、いつか俺が傷つく日が来るかもしれないけど、お前にフラれてたらもっと傷ついてたかもしれねぇしな。絢が選んだ選択肢は正しかったと思うよ。だから自分を責めんな」


…あぁ…遥輝らしいな…。 


優しいところ、気を遣わせないスマートなところ、最後にちょっと照れ笑いしちゃう可愛らしいところ。


すべてが遥輝らしい。


好きになってよかったと心から思える。


「ありがとう、遥輝。大好きだよ」


「俺も。これからも一緒にいような。愛してる」
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