ひと夏のキセキ
「いやー、いいもの見せてもらったな。遥輝が女の子相手に笑いかけたなんて真生たちが知ったらぶったまげるっしょ」


葵がまじまじと私たちを見つめてはニヤニヤする。


「そんなに珍しいことなの?」  


「珍しいもなにも、見たことがない。いろんな女子に言い寄られてるけど、マジで冷たい対応しかしないからな。あたしら仲間内でさえ遥輝の冷たさには泣かされてきたし」


「そうなんだ…?」 


私が抱いた第一印象とは違う。
 

たしかにクールだけど、心が温まるというか…。


初対面なのに安心感があるというか…。


あの笑顔のおかげで印象が変わったのかな…?


「お前は余計なことを言わなくていーんだよ。で?何の用があって俺を呼び出した」


遥輝がイラっとした視線で葵を見下ろす。


「このハンドファン、真生に返しといてくんない?あいつ置き忘れてったんだよ」


「…それだけかよ」


「あぁ。悪い?」


「……倉庫からここまで何時間かかると思ってんだ」


…倉庫…?


「副総長が体調崩して入院とか示しつかねぇからさっさと戻ってこいよ。じゃーな」


副総長……?


よくわからない言葉を残して遥輝は足早に帰っていった。


遥輝の爽やかな香りが残る。

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