ひと夏のキセキ
…わかるよ。


葵が言いたいことがすごくよく分かる。


少し触れただけで壊れてしまいそうな、少しでも躓いたら消えてしまいそうな、そんな危うさと脆さと儚さがある。


「そんな遥輝を救えるのは絢だけだと思ってる」


「…私…?」


私にできることなんてもうないよ…。


だって遥輝は私と合わない道を選んだ。


もう私たちは合わないほうがいいと思うんだ。


それがお互いのためになるから…。


「絢と付き合い始めて遥輝は変わった。楽しそうにしてることが増えたんだ。だから、今年の夏はもう大丈夫だろうなって安心してた。けど、結局誕生日までに別れちゃって、一人になった。あたし心配でさ…」


葵の暗い表情を見るのは初めてかもしれない。


いつも明るくて元気な葵がこんな物憂げな表情をするくらい、この時期の遥輝は不安定なのかな。

  
「あのバカのことだから、絢のこといつまでも引きずってるだろうし、そこに命日が重なるのがどうも心配で心配で。青涼の奴らも遥輝に電話かけたりLINE送ったりしてるけど、返ってこないらしいんだ。溜まり場にも来ないし」
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