ひと夏のキセキ
「…でも、葵に言われて思った」


今日初めて、遥輝と目が合った。


いつもの温かな眼差しはなく、どんよりと暗い。


「俺が守りたかったのは自分自身だったんだって」


「……そっか」


肉親を2人も亡くした過去。


その傷は簡単に癒えるわけもなく、今でも過去を思い出しては苦しんでいる。


お母さんの命日が近いこの時期になると塞ぎ込んでしまうと葵は言っていた。


それくらい重くて深い傷、トラウマを抱えている。


そんな遥輝にとって、私が目の前で倒れることはどれだけ傷をエグっただろう。


「絢が死ぬのが怖い」


……っ…。


そんなに真っ直ぐ見つめて言わないで。


私は、死ぬよ。


ハロウィンも、クリスマスも、お正月も、バレンタインも、遥輝と一緒に過ごすことはできない。


今年の夏で最後だから。
< 223 / 353 >

この作品をシェア

pagetop