ひと夏のキセキ
「いまだに夢に見る。母さんが飛び降りた瞬間のこと。半狂乱になりながら、ごめんねって叫びながら、母さんは落ちた」


「…うん…」


“遥輝を救えるのは絢だけだと思ってる”


葵の声がこだまする。


遥輝を救いたい。


でも、結局死ぬ私じゃ救えない。


「茜が飛び降りた時のことも、夢に見る。俺は、毎日毎日母さんと茜を夢の中で殺してる。いつも救えない。いつも手遅れになる。母さんのことも、茜のことも、俺が殺したのも同然だ」


「違う。それは違うよ遥輝」


それだけは絶対に違う。


「遥輝が殺したんじゃない」


震える拳を両手で包み込む。


遥輝の手、こんなに小さかったっけ。


いっぱい苦しんだんだよね…。


ずっとずっと苦しみ続けてきたんだね…。
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