ひと夏のキセキ
「…なんで絢が泣くんだよ…」


「ごめ…っ」


もう泣きたくないのに。


強くなりたいのに。


どうしようもない現実が苦しい。


どうあがいても死からは逃れられない宿命が苦しい。


「好きだよ遥輝…っ」


好きだから苦しいよ…っ。


大好きだから、守りたいから、壊したくないから。


だから、どうすればいいのか分からない。


遥輝と一緒にいたい。


遥輝を傷つけたくない。


でも一緒にいればいつか遥輝を傷つける。


付き合い始めた時から何も変わらないジレンマ。


「俺も、好き」


そっと抱き寄せられ、顔に遥輝の体温を感じる。


背中に回る両手は冷たい。


「…ねぇ遥輝……」


何が正解なのか。


どうすればいいのか。


「…一緒に考えよう…?ゆっくりでいいからさ…。これからどうするか、二人で話し合って、お互い納得できるまで一緒に考えよ…?」


きっと、これが今の最適解。


遥輝が小さく肯定してくれる声が聞こえた。
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