ひと夏のキセキ
「俺は、絢のお母さんの気持ちが痛いほど分かるけどな」


「…分からないでほしかった」


だから別れ話を持ちかけて、勝手に決めちゃうんでしょ。


お母さんと同じだ。


「だって、失いたくねぇんだから。できる限り一緒に生きたいから」


「できる限りって何?病室に閉じ込められたままでも、何もできなくても、寝たきりでも、それでも一緒にいることに価値があるの?」


「そうだよ。桜木絢っていうその存在に尊い価値があんの」


…なに…それ…。


尊い価値…。


遥輝の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。


「そんなふうに言ってくれるのは嬉しいけど……」


そう。


すごく嬉しい。


遥輝がそこまで私を愛してくれてるんだって。


でも、私はそんな愛がほしいんじゃない。
< 231 / 353 >

この作品をシェア

pagetop