ひと夏のキセキ
堂島さんは、ふんわりした笑顔を浮かべて病室を出ていった。


「検査かぁ……」


やだなぁ…。


逃げ出したい。


「誰か私を連れてって…」


窓の外の鳥たちは、悠々飛び回りながら私を見下ろしている。


…いいなぁ…自由って…。


「俺が連れてってやろうか」


声がした方を振り返ると、遥輝が私の方へ向かって歩いてくるところだった。


「葵はさっき検査に行ったばかりだから、しばらく戻ってこないよ」


「いや、今日はお前の見舞い」


私のお見舞い…。


遠いのにわざわざ来てくれたんだ。


「ありがとう!すごく嬉しい!」


遥輝はベッドの横の椅子に座り、テーブルの上に小さなフルーツバスケットを置いた。


「これ、くれるの?」


「あぁ。いらなかったら葵にでもやって。あいつなんでも食うから」


「いらなくないよ?あとで食べるね」


誰かからお見舞い品を貰うのは初めてのことで、心が躍る。


食べるのがもったいないなぁ…。
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