ひと夏のキセキ
先生だって肉親を2人亡くしている。


遥輝まで消えてしまったら、先生はどうなるんだろう。


先生もまた、遥輝と同じように苦しんでいるのかもしれない。


大人だから表には見せないだけで、誰かを亡くすことにトラウマを抱えていてもおかしくはない。


「今の話は聞かなかったことにして。ごめんね」


立ち上がって部屋から出ていこうとする後ろ姿が、妙に遥輝と重なって見えた。


「ま…待って!」


今拒絶したら一生後悔する。


それに、私は神田先生に恩がある。


正体不明の病に侵され、いつ死ぬかも分からなかった私をここまで生かせてくれたのは神田先生だ。


だから…、死ぬ前の最後の恩返し。


「…遥輝に会う。本当にこれで最後にするから…、最後にもう一度だけ会うよ」


これは神田先生のため。


私のためじゃない。


遥輝のためでもない。


先生のためだから。


だから、いいよね…?


最後に、あと一度だけ、大好きな人の顔を見て、終わりにする。


今日が最後の日だ。
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