ひと夏のキセキ
「来てくれてありがとう、絢ちゃん。付き合わせちゃってごめん」


神田先生は緊張している様子で私の後ろに回り車椅子を押す。


「神田先生…。私は…どうして周りの人を傷つけることしかできないのかな…」


建物の中は寒いくらい冷房が効いている。


「絢ちゃんは、遥輝を救ってくれた。それに今から僕たち親子のことも助けてくれようとしてる。傷つけることしかできないなんて、絢ちゃんの勘違いだよ」


そう言ってブランケットを優しく肩にかけてくれた。


あったかい…。


「僕が知ってる遥輝は、表情が無くて、自分にも他人にも冷たかった。笑顔なんてもう何年も見てない。でも、絢ちゃんと出会ってから変わった。明るい表情をしている遥輝を何度も病院で見かけた。あんな顔、僕には見せてくれないけど、絢ちゃんになら見せてるだろう?」


神田先生は車椅子をゆっくり進めながら話を続ける。


私たち以外誰もいない静かな空間に、先生の優しくて穏やかな声が響く。
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