ひと夏のキセキ
「この向こうに遥輝がいる」


重厚感のある扉が行く手を阻んでいる。


帰りたい。


でも、ここまで来てもう引き返せない。


どんな顔して会えばいいの?


なんて声をかければいいの?


久しぶり?お誕生日おめでとう?


おめでとうなんて言っちゃいけないか。


今日は遥輝にとってツラい日。


おめでたくなんてないよね…。


「…私のタイミングで行かせてください」


まだ心の準備ができていない。


先生に車椅子を押されている私を見て、遥輝はどう思うだろう。


今、遥輝はどんな思いでプラネタリウムに来たんだろう。


「…プラネタリウム、もうすぐ始まっちゃうよ」


「でも…まだ心の準備ができてないから…」


いつ準備ができるかも分からないけど。


5分後かもしれないし、10分後かもしれない。


1週間後の可能性もあるし、一生踏ん切りがつかないかもしれない。
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