ひと夏のキセキ
「帰っちゃうの?もっと話したいな…」


それはからかいではなく本心。


本心からそう言ったのに、遥輝は困ったようにため息をついた。


「お前といると調子が狂う」


「…ごめん……」


「いやそうじゃなくて…」


遥輝は何か言いたげだったけど、言葉を飲み込んで窓辺に移動した。


「遥輝、見て見て。あの鳥いつもこの近くを飛んでるの。真っ白で可愛いでしょ」


その隣に立って青々と輝く空を見上げる。


夏空は今日も綺麗だ。


陽の光に照らされて遥輝の金髪がキラリと輝く。


「どれ?」


窓を覗こうとした遥輝の身体が私に密着する。


「…っ」 


ドク、ドク、ドク、ドク、ドク…っ


緊張する…。


「も、もう飛んでいっちゃった」


「顔、赤」


涼しい顔で私の顔を覗き込んでくる遥輝に、女性慣れしている余裕を感じる。
< 32 / 353 >

この作品をシェア

pagetop