ひと夏のキセキ
「この車、父親にもらったんだ」


「そうなんだ。さすが神田先生だね」


やっぱり神田家はお金持ちらしい。


お父さんから高級車を貰える感覚は庶民には到底わからない。


でも、嬉しそうに話す横顔を見ていると、私たちがゲームソフトを貰って喜ぶ感覚と同じなんだと感じた。


先生との関係性が上手く行ってそうでよかった。


「親父のとこ行く?それとも、先に海行く?」


車がゆっくり発進する。


「じゃー、先に海行きたい!」


「おけ」


スムーズに駐車場を出て、公道を走る。


さっきまでいた空港がみるみる小さくなっていく。


フロントガラスの向こうに見える空は青々としていて、遠くに見える入道雲が夏を主張している。


また、夏が来るとは思ってもいなかった。


あれが最後の夏なのだと覚悟していた。


だけど…またこうして最愛の人と夏を迎えることができたんだ。


「なぁ絢」


信号が赤になり、ゆっくりと停車する。


「うん?」

 
―チュッ


「っ!?」


不意打ちのキスは、懐かしい味がした。


「愛してるよ」


「私も、愛してる」




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