ひと夏のキセキ
遥輝から顔を逸らそうと振り返った先にいたのは主治医だった。


「神田先生!珍しいですね、こんなところにいるなんて」


「あの女の子のことを診ることになったから、様子を見に来たんだ。絢ちゃんは最近調子良さそうだね」


「はい!お陰さまで」


神田先生は、幼い頃から私を診てくれている先生だ。


人見知りが激しかった私が心を許した数少ない人。


銀縁眼鏡の奥にはいつも優しい瞳がある。


「お前、コイツとどういう関係?」


突然、遥輝の鋭い声が飛んできた。


「え…?主治医だけど…?」


静かに立ち上がった遥輝からは、敵意のようなものを感じる。


私の知らない遥輝の顔。


神田先生を鋭く睨みつけている。


ただならぬ空気を感じ、先生に助けの視線を投げかけたけど先生は何も言わず遥輝に冷ややかな視線を送っていた。


「主治医?コイツが?お前の?」


「う、うん…」


さっきまでの優しい遥輝はいない。


ここにいるのは、冷たい神田先生と怖い遥輝。


私の知らない二人だ…。


「こんな奴が主治医だから治んねぇんじゃねーの?」
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