ひと夏のキセキ
「混乱させちゃってごめんね、絢ちゃん。近いうちに検査結果が出るから、その時にでも話そうか」


「え…でも…、あ……」


先生は申し訳無さそうに眉を下げてからラウンジを去っていった。


気まずい空気が場を支配している。


“はやとくん”という男の子が絵本を朗読している声だけが響く。


遥輝はガックリと項垂れてソファに身を預けている。


「あの…遥輝……」


この空気から逃げたい。


でもふたりきりだから逃げられない。


遥輝と二人になるのがこんなに苦痛だったことはない。


「…遥輝…」


なんて声をかければいいんだろう。


なんで遥輝はあんなに怒っていたんだろう。


まるで別人のようだった。
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