ひと夏のキセキ
学校
「絢!?どうしたのその顔」
病室に戻ると、葵にギョッとした顔で出迎えられてしまった。
遥輝の心の苦しみに触れたとたん、涙が止まらなくなってしまったんだ。
あんなふうに怒る遥輝、取り乱す遥輝を初めて見て、力になりたいと思った。
でも私には何もできなくて、その無力さが悔しかった。
「遥輝の野郎に泣かされた?」
「違うの…っ。遥輝は何も悪くなくて…」
ただ自分が情けなくて苦しくなっちゃっただけ。
遥輝は悪くない。
「ったく。こんな可愛い子を泣かすなっつーんだ。ホント腹立つ男だわ」
葵はそう言いながらティッシュを渡してくれた。
「ホントに遥輝のせいじゃないから…」
「どうだか。アイツは人の気持ちが分かんない奴だから」
葵は怒ってるみたいだけど、私はそんなふうに思ったことはない。
いつも私の心に寄り添ってくれる優しい人だ。
だからこそ、なにもできなかったことがショックだった。