ひと夏のキセキ
とてもとても重くて、胸が苦しくなる話だった。


知られざる遥輝の過去。


話したがらなかった家庭環境。


こんなに苦しい経験を、私が無理やり聞き出してしまってよかったんだろうか。


知りたいって懇願したのは結局私のエゴで、遥輝の気持ちを無視したもの。


遥輝はずっとどんな気持ちだったんだろう。


触れてほしくないことに触れ続けられるなんて、嫌だったよね。


それに…、神田先生が家庭を犠牲にして診ていた患者の中には私もいる。


私は特に先生の手を煩わせたほうだ。


きっと、先生が私を診ている間にも遥輝のお母さんの心は蝕まれていった。


「ごめんね…ごめんね…遥輝…」


「なんでお前が泣くんだよ。謝ってる意味も分かんねーし」


刺々しい言葉とは裏腹に優しく抱き寄せられる。


「ほんとお前は子供っぽいな。そんなことで泣くな」


「だって…。遥輝のこと傷つけちゃったもん…。申し訳なくて…」


私が泣いてちゃいけないのは分かってるのに涙が止まらない。
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