ひと夏のキセキ
「別に傷ついてねーよ。俺のことナメんな」


笑いを含んだ声で髪の毛をワシャワシャされ、顔を上げる。


遥輝はキュっと口角を上げて私の髪を撫でた。


「俺なんかのために涙を流す必要ない。わかったか?」


「“遥輝なんか”じゃないよ。“遥輝だから”だよ。わかったか?」


口調を真似て言ってみると、大きな手で頭をクシャクシャにされてしまった。


「お前といると調子狂うわ」


「でも私は遥輝といると楽しいよ」


「だから、そういうとこなんだよなー。自覚してくれよ」


「自覚って?」


「…うるせぇ。分からないならいーんだよ。ほら、葵のとこ戻るぞ」


パッと差し出された手のひら。


大きくて、すべてを包み込んでくれそうだ。


ぎゅっ…


そして、温かい。


やんわり握り返してくれるこの優しい手が好き。
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