キミは海の底に沈む【完】
かわいい女の子…。
「多分、中学生?」
中学生に見えるらしい…。
〝この体〟は中学生なのだろうか。
「まだ課題やってんの?──あ、そう?じゃあ来てよ。ダッシュね」
「名前?──ねぇ、藤沢が名前聞いてるんだけどあなた名前なんて言うの?」
電話から、私に聞いてきたけど、その質問になんて答えればいいか分からなかった。
だって私はそういうことが知りたくて、藤沢那月に会いに来たのだから…。
「あの…わたし、」
戸惑っていると、首を傾げたその人は「まあ会えば分かるっしょ、待ってるから」と電話を切った。
「もう来るって!」
「あ、ありがとうございます…」
「全然いいよ!じゃあ私バイトだから頑張ってね〜!」
何を頑張るのか分からないけど、笑顔で手を振り、この場を離れるらしいその人にたくさん頭を下げた。
それからそれほど時間もなく、その人はやって来た。
「あ、昨日の子!」と、校門で待っていた私に話しかけてきたのは、さっきの女の子が言っていた〝金髪〟ではなかった。
派手で、怖そうな茶髪の男の子。
誰……?
〝昨日の子〟
そう言われても、私には分からなかった。
だって私は彼に会ったことが無いのだから。
どんどん私に近づいてくるその茶髪の彼は、「な、俺の事覚えてる?」と笑って面白そうに首を傾げた。
びく、っと、その顔の距離の近さに肩が動いた。
知らない
誰…。
「…え?」
「昨日、駅で会ったろ?」
駅で…?
知らない
この人は何を言ってるの。
そもそも私は駅なんて行ってない。
駅に行ったのは今日だけで。
昨日は──…
昨日、昨日は、私は──…
…──分からない、私は昨日何をしてた?
「あ、の、わたし…昨日駅には…」
「え?」
「あの…」
覚えてない。
「あなたは、私のお知り合いですか、」
そう言い、戸惑っていると、「マジかぁ」と、笑っている顔は驚きの顔に変わった。
「本当に忘れるんだなぁ」と。