キミは海の底に沈む【完】
〝忘れるんだな?〟

この人は、一体何を──…



「おい、那月!来てるぞ昨日の子!」


意味の分からない事を言う男性が後者の方に振り返る。少し戸惑い顔を下に向けていた私は、その声に顔を上にあげた。

そこにいたのは、金色の髪。
紺色の無地のズボンをはいて、カッターシャツではなかった。真っ黒のTシャツを着ているその人は、私と目が会った瞬間、──…目を見開かせた。

そして一瞬のうちに、眉を寄せた。

鋭い目。
切れ長の、目。


〝那月〟


彼はその目を細めると、ゆっくりと私を見渡した。ううん、私じゃない。
まるで私の周りを見渡すように一瞥すると、もう一度私のに視線を戻した。


「1人か?」


私の目を見て、呟いてくる。
その声は少し驚いているようだった。

〝金髪〟で、私を知っているらしい人。

名前は〝那月〟

この人が〝藤沢那月〟という私の探し人だと分かり。


「潮は?」


潮?
その質問の意味が、分からなくて。
〝潮〟は知ってる。日記で見た。
〝潮〟は〝澤田凪〟の恋人のはずで。


彼はゆっくり、2歩ほど私に近づいてくると、どうしてか私の顔に指を伸ばしてきて…。


「お前、なんでそんな顔あけーの?」


やっぱりこの人は、私をよく知っているみたいで。涙が出そうになった。

頬に指先がふれる寸前で、その指先は遠のいていく。

顔が赤い。
それは、ずっと太陽の下にいたから。


「わ、わたし、ずっと、あなたを探してて…」

「…俺を?」

「な、なにも、分からなくて…」

「……」

「あなた、なら…しってると、思って…」


「那月…」という、さっきの茶髪の人が、心配そうに藤沢那月に声をかけた。


藤沢那月に会えたからか分からない。
私を知っている人に会えた安心感からか、凄く涙腺が熱くなった。

そのままポロポロと涙が出てきて、私は片手だけファイルを離し、自分の手のこうで涙をふいた。


「…その格好は?」

「…っ…」

「まさか、何も分からなくて家から飛び出してきたとか?」

「…っ、あの、…」

「ずっとここで待ってたのか?」


泣きながら小さく頷けば、彼は「潮のことも分かんねぇの?」と、私を見つめてくる…。

不安気味にそれに対しても頷けば、「…マジかよ」と茶髪の人が言う。


藤沢那月がこの状況が分かったのか定かではないけど、藤沢那月は「……悪ぃけど、今日パスな。こいつ送っていくわ」と、茶髪の人に呟いていた。



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