キミは海の底に沈む【完】
──確かに、ここへ捨てたはずだった。
私の記憶はちゃんと覚えてる。
それなのに無くなっていた。
どうして………。
「ここに?」
〝潮くん〟もゴミ箱の中を覗くけど、無くて。
もう処分されたのかもしれない。
後悔しても今更遅く。
「駅員に聞いてみよう」
〝潮くん〟が駅員さんに聞いてくれたけど、ファイルを捨てたゴミ箱は、駅のゴミ箱ではないらしく、「分からない」と言われた。
きっともう、見つからないだろう。
「……ごめんなさい……、捨ててごめんなさい……」
何度も何度も謝れば、彼は私の頭を優しく撫でた。
「大丈夫」
「でも、」
「本当に、君が無事ならそれでいいんだ」
彼とホテルに向かった。
鍵があれば何度も出入りできるホテル。
そのホテルの中でも謝っていると、「謝らなくていい、俺が悪い……。君が悪いところはひとつもない」と、子供のようにあやしてくれた。
しばらくして落ち着き、〝潮くん〟はルームサービスというものを頼むらしく、私に選ばせてくれた。
ルームサービスが届くまでにお風呂に入ることになり、ズキンズキンと足の裏が痛む中、私は汗を流す。
よく見ると、私の足の裏の皮が破けていた。
お風呂から出て、汗をかいた服を着る訳にも行かなく、ホテルに来る前に買ってもらった下着と、ホテルのバスローブを着た。
また、私の足の裏を手当てするのか、部屋のソファに腰かければ、〝潮くん〟はしゃがみこみ、私の足の裏を見た。
そんな私の足を見て、今度は彼が何度も何度も謝ってきた。
処置が終わり、ルームサービスの料理を食べ終わり、ぼんやりしていると彼もシャワーを浴びてきたらしい。と言っても、5分もなかった。
〝潮くん〟は私を後ろから抱きしめると、「痛くないか?」と、また私の足の心配をする。
「あの……」
「うん?」
「本当に……眠ってしまえば、私は記憶を失うのですか?」
「……」
「ほんとに、」
「…うん」
「だとすると、私は今日死んでしまうのですね」
「確かにそういうことになるかもしれない」
否定しない彼は、抱きしめるのを止めると、私へ向き合うように前へ回ってきた。
お風呂に入ったというのに、床へ膝をつく。
「君が今、どういう言葉を言って欲しいか、俺には分からない。…もしかすると傷つけるかもしれない」
そう言って、私の手を握った。
「毎日毎日、君は違う」
違う……。
「笑ってる日もあれば、ずっとずっと泣いている日もある。驚いて寝るまで日記を読んでた日もあるし。その日によって君は違う」
その日によって……。
「今日みたいに行方不明になったことも…?」
「うん、」
「……そうですか」
「公園で見つかったり、自力で家に帰ってきたり」
「……」
「本当に、その日によって違うんだ」
彼が、私の手を強く握った。
「だけど、毎日違う君を見て、俺は毎日好きだって思う」
毎日……
好き……。
優しく私を見つめてくる〝潮くん〟。
「だから君を嫌うことは絶対無い。離れることも絶対に無いよ」
嫌うことは……
離れることも。
「昨日も、今日の君も、明日も、大事で……。自分の命よりも大事だから」
「……」
「こんなにも好きな子を、俺は忘れたりしない」
「……」
「これから先も君の事は絶対に俺が覚えてる」
「……」
「だから、君は死なない」
「……潮さん……」
「俺が死なせないよ」
気づけば私は泣いていたらしく。
バスローブにぽたぽたと頬をつたい流れ落ちていた。
「……嫌にならないのですか」
「ならないよ、どんな君も好きだから」
手を握られている私は涙を拭くことが出来ず。それでもこの手を振り払う事が出来ない。
「本当に忘れませんか……」
「忘れないよ」
「わたし、」
「絶対に覚えておく」
「わたしっ……」
「明日の君にも、君の事を話すから」
「……っ、」
「安心していい」
「……」
「頑張ったな、もう怖くないからな」
その日の夜、私は〝潮くん〟の腕の中で眠った。
よっぽど疲れていたのか、〝潮くん〟の腕の中が安心するのか分からないけど、〝潮くん〟に頭を撫でられているといつの間にか眠っていた。
〝潮くんは〟「君は脳に入る情報量が人よりも多いから、疲れやすいんだよ」と、教えてくれた。
「また明日な」
また明日……。
彼は、毎日、この言葉を言っているのだろうか。
そう思うと彼に申し訳なく……。
どうかと、眠る前に願った。
明日、彼を拒絶しませんように、と。
私の記憶はちゃんと覚えてる。
それなのに無くなっていた。
どうして………。
「ここに?」
〝潮くん〟もゴミ箱の中を覗くけど、無くて。
もう処分されたのかもしれない。
後悔しても今更遅く。
「駅員に聞いてみよう」
〝潮くん〟が駅員さんに聞いてくれたけど、ファイルを捨てたゴミ箱は、駅のゴミ箱ではないらしく、「分からない」と言われた。
きっともう、見つからないだろう。
「……ごめんなさい……、捨ててごめんなさい……」
何度も何度も謝れば、彼は私の頭を優しく撫でた。
「大丈夫」
「でも、」
「本当に、君が無事ならそれでいいんだ」
彼とホテルに向かった。
鍵があれば何度も出入りできるホテル。
そのホテルの中でも謝っていると、「謝らなくていい、俺が悪い……。君が悪いところはひとつもない」と、子供のようにあやしてくれた。
しばらくして落ち着き、〝潮くん〟はルームサービスというものを頼むらしく、私に選ばせてくれた。
ルームサービスが届くまでにお風呂に入ることになり、ズキンズキンと足の裏が痛む中、私は汗を流す。
よく見ると、私の足の裏の皮が破けていた。
お風呂から出て、汗をかいた服を着る訳にも行かなく、ホテルに来る前に買ってもらった下着と、ホテルのバスローブを着た。
また、私の足の裏を手当てするのか、部屋のソファに腰かければ、〝潮くん〟はしゃがみこみ、私の足の裏を見た。
そんな私の足を見て、今度は彼が何度も何度も謝ってきた。
処置が終わり、ルームサービスの料理を食べ終わり、ぼんやりしていると彼もシャワーを浴びてきたらしい。と言っても、5分もなかった。
〝潮くん〟は私を後ろから抱きしめると、「痛くないか?」と、また私の足の心配をする。
「あの……」
「うん?」
「本当に……眠ってしまえば、私は記憶を失うのですか?」
「……」
「ほんとに、」
「…うん」
「だとすると、私は今日死んでしまうのですね」
「確かにそういうことになるかもしれない」
否定しない彼は、抱きしめるのを止めると、私へ向き合うように前へ回ってきた。
お風呂に入ったというのに、床へ膝をつく。
「君が今、どういう言葉を言って欲しいか、俺には分からない。…もしかすると傷つけるかもしれない」
そう言って、私の手を握った。
「毎日毎日、君は違う」
違う……。
「笑ってる日もあれば、ずっとずっと泣いている日もある。驚いて寝るまで日記を読んでた日もあるし。その日によって君は違う」
その日によって……。
「今日みたいに行方不明になったことも…?」
「うん、」
「……そうですか」
「公園で見つかったり、自力で家に帰ってきたり」
「……」
「本当に、その日によって違うんだ」
彼が、私の手を強く握った。
「だけど、毎日違う君を見て、俺は毎日好きだって思う」
毎日……
好き……。
優しく私を見つめてくる〝潮くん〟。
「だから君を嫌うことは絶対無い。離れることも絶対に無いよ」
嫌うことは……
離れることも。
「昨日も、今日の君も、明日も、大事で……。自分の命よりも大事だから」
「……」
「こんなにも好きな子を、俺は忘れたりしない」
「……」
「これから先も君の事は絶対に俺が覚えてる」
「……」
「だから、君は死なない」
「……潮さん……」
「俺が死なせないよ」
気づけば私は泣いていたらしく。
バスローブにぽたぽたと頬をつたい流れ落ちていた。
「……嫌にならないのですか」
「ならないよ、どんな君も好きだから」
手を握られている私は涙を拭くことが出来ず。それでもこの手を振り払う事が出来ない。
「本当に忘れませんか……」
「忘れないよ」
「わたし、」
「絶対に覚えておく」
「わたしっ……」
「明日の君にも、君の事を話すから」
「……っ、」
「安心していい」
「……」
「頑張ったな、もう怖くないからな」
その日の夜、私は〝潮くん〟の腕の中で眠った。
よっぽど疲れていたのか、〝潮くん〟の腕の中が安心するのか分からないけど、〝潮くん〟に頭を撫でられているといつの間にか眠っていた。
〝潮くんは〟「君は脳に入る情報量が人よりも多いから、疲れやすいんだよ」と、教えてくれた。
「また明日な」
また明日……。
彼は、毎日、この言葉を言っているのだろうか。
そう思うと彼に申し訳なく……。
どうかと、眠る前に願った。
明日、彼を拒絶しませんように、と。