キミは海の底に沈む【完】
令和2年7月17日
────この人は誰だろうか。
起きてからまず初めに思ったのがそれだった。
ぱちぱちと瞬きをしても、全く思いだせなくて。
私は布団の中にいるらしい、どうしてか知らない男性が一緒にその中に入っていて、たった今まで私と眠っていた。この状況が分からず、今度はまじまじと男性の顔を見つめた。
白い肌…。
黒い髪。
何歳ぐらいだろう。
17、8……。
まじまじと見つめても、やっぱり目の前にいる男性に見覚えがなく。
そのまま男性の顔を眺めていると、目から重力にそって何かの線のようなものが描かれてあった。
描くというよりも、何かの痕。
涙?
この男性は、眠りながら泣いていたのだろうか?辛いことでもあったのだろうか?怖い夢を見たのだろうか?なんの涙だろう?
とりあえず状況を整理しようと、男性が起きないように、体を起こそうとした。でも、上手く起き上がれなかった。
私の左手が、男性の右手と繋がっていたから。
どうやら手を繋いで、私たちは寝ていたらしい。寝ているはずなのに、男性が強く握っているせいで離そうにも離せなく。
私はとりあえず自分の服を見た。
きちんとバスローブを着て、乱れはなかった。
でも、手を繋いでいる。
私はこの男性と何か関係があるのだろうか?
本当に覚えがないけど……。
昨日の事を思い出そうとしても……。
……あれ?
なんで覚えてないんだろう?
そもそも、私の名前は──……
なんだったっけ……?
困ったな、本当に思い出せない。
腹筋を使って、無理矢理体を捻るように起きて、周りを見た。
布団、というよりはベットで眠っているらしく、ソファがあったり、机があったり、テレビもある。
誰かの家……?
この男性の家だろうか?
分からないから、男性の顔を見るけど、見ても何も分からなく。
──この人は誰だろうか?
やっぱり、そんな疑問が頭に思い浮かぶ。
だから。
「──……あの、すみません」
眠っている男性に声をかけた。
1度声をかけただけだった。
眠りが浅かったのか、少し眉間にシワを寄せ、瞼が開かれ虚ろな目と、視線が重なる。
そして、1回瞬きをした男性は、すぐに目を見開いた。
私がいたことに驚いたのか分からないけど、勢いよく体を起こした男性は、「っ、……わ、わるい」とどうしてか謝ってきた。
その間も、手は繋がれたままで。
男性が起き上がり、私もやっとベット上で座る事ができて……。
さっきまで寝ていた男性とずっと目が合う。
切れ長の二重の目。
彼が起きても、やっぱり見覚えがない。
ベットの上で見つめ合ったまま、少し寝癖がついた男性が何かを喋ろうとする。
でも、今まで寝ていたせいか、あまり頭が回っていないようで。
「あの…、起こしてしまってごめんなさい…」
男性はずっと私の顔を見たまま。
「…いや、俺も、寝てごめん……。今日は絶対に寝ないって決めてたのに……」
寝てごめん?
寝ないと決めてた?
話がよく分からない。
そう思って、顔を少しだけ傾けた。
「初めて見る男が横にいて驚いたろ?」
少し目を細め、柔らかく笑った男性。
初めて見る男が横にいて驚いたとは?
いったい、どういう意味か。
「あなたは誰ですか?」
「俺は潮。さんずいに、朝って書いて潮」
「……潮?」
知らない名前。
「それから君の彼氏でもある」
私の?彼氏?
それはお付き合いをしているっていう事だろうか?全く、見覚えも、聞き覚えも無いのだけど。
「よく分からないのですが…」
「うん」
「えっと…」
「君は昔、小学生の頃、事故で記憶を失う病気になった」
「え?」
「寝ると忘れてしまう記憶障害なんだ」
記憶障害?
私が?
寝ると、忘れてしまうの?
そう言われると、確かに今起きた以前のことが全く思い出せなく。妙に納得している部分があった。
ああ、それで、何も分からないんだ……って。
起きてからまず初めに思ったのがそれだった。
ぱちぱちと瞬きをしても、全く思いだせなくて。
私は布団の中にいるらしい、どうしてか知らない男性が一緒にその中に入っていて、たった今まで私と眠っていた。この状況が分からず、今度はまじまじと男性の顔を見つめた。
白い肌…。
黒い髪。
何歳ぐらいだろう。
17、8……。
まじまじと見つめても、やっぱり目の前にいる男性に見覚えがなく。
そのまま男性の顔を眺めていると、目から重力にそって何かの線のようなものが描かれてあった。
描くというよりも、何かの痕。
涙?
この男性は、眠りながら泣いていたのだろうか?辛いことでもあったのだろうか?怖い夢を見たのだろうか?なんの涙だろう?
とりあえず状況を整理しようと、男性が起きないように、体を起こそうとした。でも、上手く起き上がれなかった。
私の左手が、男性の右手と繋がっていたから。
どうやら手を繋いで、私たちは寝ていたらしい。寝ているはずなのに、男性が強く握っているせいで離そうにも離せなく。
私はとりあえず自分の服を見た。
きちんとバスローブを着て、乱れはなかった。
でも、手を繋いでいる。
私はこの男性と何か関係があるのだろうか?
本当に覚えがないけど……。
昨日の事を思い出そうとしても……。
……あれ?
なんで覚えてないんだろう?
そもそも、私の名前は──……
なんだったっけ……?
困ったな、本当に思い出せない。
腹筋を使って、無理矢理体を捻るように起きて、周りを見た。
布団、というよりはベットで眠っているらしく、ソファがあったり、机があったり、テレビもある。
誰かの家……?
この男性の家だろうか?
分からないから、男性の顔を見るけど、見ても何も分からなく。
──この人は誰だろうか?
やっぱり、そんな疑問が頭に思い浮かぶ。
だから。
「──……あの、すみません」
眠っている男性に声をかけた。
1度声をかけただけだった。
眠りが浅かったのか、少し眉間にシワを寄せ、瞼が開かれ虚ろな目と、視線が重なる。
そして、1回瞬きをした男性は、すぐに目を見開いた。
私がいたことに驚いたのか分からないけど、勢いよく体を起こした男性は、「っ、……わ、わるい」とどうしてか謝ってきた。
その間も、手は繋がれたままで。
男性が起き上がり、私もやっとベット上で座る事ができて……。
さっきまで寝ていた男性とずっと目が合う。
切れ長の二重の目。
彼が起きても、やっぱり見覚えがない。
ベットの上で見つめ合ったまま、少し寝癖がついた男性が何かを喋ろうとする。
でも、今まで寝ていたせいか、あまり頭が回っていないようで。
「あの…、起こしてしまってごめんなさい…」
男性はずっと私の顔を見たまま。
「…いや、俺も、寝てごめん……。今日は絶対に寝ないって決めてたのに……」
寝てごめん?
寝ないと決めてた?
話がよく分からない。
そう思って、顔を少しだけ傾けた。
「初めて見る男が横にいて驚いたろ?」
少し目を細め、柔らかく笑った男性。
初めて見る男が横にいて驚いたとは?
いったい、どういう意味か。
「あなたは誰ですか?」
「俺は潮。さんずいに、朝って書いて潮」
「……潮?」
知らない名前。
「それから君の彼氏でもある」
私の?彼氏?
それはお付き合いをしているっていう事だろうか?全く、見覚えも、聞き覚えも無いのだけど。
「よく分からないのですが…」
「うん」
「えっと…」
「君は昔、小学生の頃、事故で記憶を失う病気になった」
「え?」
「寝ると忘れてしまう記憶障害なんだ」
記憶障害?
私が?
寝ると、忘れてしまうの?
そう言われると、確かに今起きた以前のことが全く思い出せなく。妙に納得している部分があった。
ああ、それで、何も分からないんだ……って。