キミは海の底に沈む【完】
他に質問と言われても。
たくさん聞きたいことがあるのに、いざ思えば何も思いつかなくて。
家がどこにあるのか聞こうにも、外の世界が分からない私にとって聞いても無意味。


「……怖い夢を見ていたんですか?」

「え?」

「あなたが泣いていたようなので。まだ少し痕があります」


潮くん、って言えなかった。
恥ずかしかったからなのか。

私の質問に、瞬きをした潮くんは「え?」と顔を傾けた。自分が泣いていたことに気づかなかったのだろうか?
ううん、寝ていたから気づかないのは当然で。
だとしたら無意識に泣いていたんだろう。


「夢は見なかったんだけど、もしかしたら凪と一晩一緒にいれて幸せだったのかもしれない」


私と一晩一緒にいれて?


「幸せだったんですか?」

「俺はね。こうして朝を迎えるのは滅多にないから」


優しく笑った潮くん。
その顔は本当に幸せそうで。


「悲しくてじゃないなら、良かったです」


私も微笑むと、手をギュッと握られ見つめう。この雰囲気を他の人に伝えるのなら、心が穏やかになれる暖かい空間かもしれない。


「好きだよ、凪」


突然の告白に戸惑ったりもなく、初めて会ったのに、私のこの人が好きだと思った。
彼の人間性というのだろうか。
きっと、今までの私も、潮くんが好きだったのだろうな……。そんな気がする。


「いつも、言ってくれるんですか?」

「好きって?」

「はい」

「うん、…そうだな。毎日言ってる」

「ごめんなさい、覚えていなくて……」

「謝ることじゃない」

「潮くん」

「ん?」

「聞きたいこと、というわけではないのですが」

「うん」

「トイレに行ってもいいですか?」


私の言葉に、「ああ、悪い…」と手を繋いだまま、私よりも先にベットからおりた。


「足、痛いだろうから」


足?なんの?
そう思って足を見れば、私の足の裏にガーゼが貼られてあった。なんだろう?でも、それほど痛くはなく。

潮くんに手を引かれながらベットからおりたとき、確かに痛みがあったけど。


足の裏に、怪我があるらしく。


「…この怪我は?」

「昨日、靴をはかずに外に飛び出しちゃったから」

「不安定でですか?」

「うん」


どうも、昨日の私は凄かったらしい。
家は嫌だって言って、潮くんも彼氏だと信じたくなく、自分の名前さえ嫌だなんて。

それに、靴もはかずに、外へ飛び出しちゃうなんて。

泣いたのだろうか。
暴れたのだろうか。
分からないけど、自分でも信じられないけどたくさん迷惑をかけたらしい。


トイレの場所が分からず、連れていってくれた潮くんに「迷惑をかけてごめんなさい」と謝った。


「え?」

「昨日……、ごめんなさい……」


潮くんは絶対に私のせいなのに、「怪我をしてるのは俺のせいだから、迷惑だと思わないでくれ」と、笑っていた。
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