キミは海の底に沈む【完】
眠る、というよりも、気絶してしまう感覚だった。──「ジュース買ってくるから、ここで待ってな」と、愛おしそうに頭を撫でられ頬にキスをされ、私は潮くんの言われた通りにここで待っていた。


きっと、悲しいけれど幸せで穏やかな気持ちが、その行為を引き寄せたのかもしれない。


これ以上記憶が無理だと、脳に重さが加わり、気絶するような、頭が真っ白になって、落ちる感覚…。ふ…と、前かがみに倒れた。


──ドサ、と音がした。それが階段から落ちた音だとは自分の音だとは気づかなかった。


3段ほど、落ちたと思う。
痛みよりも先に、脳が落ちた。
だから「──…凪!」と、気絶し、誰かに起こされた時、その痛みがどうして起こっているのか全く分からなかった。


「どうした!? 何があった!? 転んだのか!?」


私は誰かの腕の中にいるらしい。
おしりは地面についているから、上半身だけ起こされているのだと思う。

その人、若い男性と目が合い、体を動かそうとすれば──ズキ、っと頭の横辺りが傷んだ。思わず顔を顰めると、「どこ打った?!階段から落ちたのか?!」と焦った声を出す男性をもう一度見た。


「……あ…の」

「どこが痛い!?」

「……だれ…ですか……」



私がそう言った時、その男性の顔が目を見開き、強ばった。かと思ったら眉を寄せ悲しそうな顔をして──…
それでも、その顔は一瞬だけで。瞬きをすると、その顔は無くなってた。



「俺は桜木潮……。…ごめんな、びっくりしたよな。君は階段から落ちたんだと思う。どこか痛いところある?」

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