キミは海の底に沈む【完】
どうも、ここは病院らしかった。

ここがどうして病院っていうのが分かったのか、それはカーテンの隙間から『──総合病院』というのが見えたから。


でも、私が病院にいる理由が分からなかった。
どこか怪我でもしたのだろうか?
自分自身、どうして病院にいるのか分からなかった。


部屋の中に1人いた私はトイレへ行きたくなり、
ベットから足をついた。その部屋には小さな洗面台があった。


鏡もあって、その鏡には黒い髪の女の子がいた。この子は誰だろうか?そう思って首を傾げれば同じように動き、ああこの子は私なんだって思うことに時間はかからなかった。


「────本当にすみませんでした…」


ドアに近かったからか、ドアの外で声がした。
聞いたことも無い、若い男の声だった。


「潮くんのせいじゃはないわ」


大人の、女の人のような声も聞こえる。


「でも、俺が目を離したから…。俺の責任です、本当にすみませんでした」


どうやら、若い男の人が、大人の女の人に、謝っているようで。


「昨日、CTをとって問題なかったし。さっきも先生がいつもと変わらないって言ってたもの」

「…今まで、頭をうって無くなることはありません…。寝ていなかったのに…。あん時目を離して…なんで倒れてたのかも分からなくて…」

「潮くんには、本当に感謝してるの。だから、お願いだから頭をあげて」

「すみませんでした…」

「潮くんのせいじゃない、違う。私こそ潮くんに任せ切りだから…」

「すみません…」

「…潮くん…」

「もう、傷つけないって決めたのに……」

「大事にしてくれてる…。いつもそばにいてくれてありがとうね…」

「……」

「潮くん……」

「昨日…、先生が言ってたんです、その日の出来事を、忘れたくて自ら忘れようとしたんじゃないかって」


男の人の声が、凄く悲しそうで。


「昨日、凪が俺に好きって言ってくれたんです。1年3ヶ月ぶりに…」

「……うん」

「凪はそれを、…忘れたかった、って事…、なんですかね……」



途切れ途切れの声。
少し枯れた声。


見えているわけじゃないのに、扉の向こうにいる男の人の声が、泣いているような気がした。


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