キミは海の底に沈む【完】
私がいた部屋はマンションらしかった。それが分かったのは、窓から見える景色が高かったから。多分、5階ぐらい。

その部屋の扉を開けリビングに行けば、「おはよう」と、女性の声が聞こえた。
ショートカットのブラウンの髪。黒縁の眼鏡。ああ、この人が〝おかあさん〟。そう思ったのは、知らないはずなのに、朝食を作っているこの雰囲気に違和感が無かったからか。


でも、分からない私にとっては、赤の他人のような感覚で。思わず、黙り込んでしまう。


「あら、制服に着替えてこなかったの?」


そんな〝おかあさん〟は、まだパジャマの姿を見て首を傾げていた。


制服?
なんの事かと、黙り込んでいると、


「読んでないのね、机の上に紙があったでしょう?それに書いてあるから読んできて」


にっこり笑ってきた〝おかあさん〟。


紙?


「…ファイルの事ですか?」


初めて出した声は、やけに小さかった。



「ファイルじゃないわよ、ただの紙なかった?」

「…えっと…」

「きっとあると思うから、見てきて」


優しく微笑まれ、私は頷いたあと、もう一度部屋に戻った。〝おかあさん〟の言う通り、確かに紙は机の上にあった。
ファイルの方に目がいっていて、どうも見落としてたらしい。




〝6時20分 起床
6時50分までファイルを見る

7時30分までにすること
①制服に着替える
制服はクローゼット
ブラウス下着類もクローゼットの棚の中
②ご飯を食べる
③身支度をする
時間割の確認もする
④7時30分 学校へ行く
ウシオくんと一緒に行く〟




分からない事が多々あった。
いや、半分以上は分かるのだけれど、知らない単語がある。

また名前が出てる〝ウシオくん〟
この紙が正しければ、私は彼と学校へ一緒に行くらしい。

昨日、傷つけてしまったらしい彼と。




──…やっぱり、私には分からない…。
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