キミは海の底に沈む【完】
令和2年7月19日
酷く、頭が重かった。
重いというよりも、ズキズキというか、動けば脳が揺れる感覚がしてとても気持ち悪くて。
息を出せば、やけに喉が熱く。吐息も熱かった。
簡単言えば、ツラい……。
体を動かせない。
体を動かそうとすれば、関節や皮膚が痛くて、起き上がるのもしんどくて。
それでも、ここはどこだろう?っていう気持ちが強かった。見慣れない天井。頭が上手く働いていないせいか、自分がどこにいるかも分からなかった。
布団にいることは分かる、でも、それだけしか分からない。
頑張って全身が痛む体を起こしても、ここがどこかの部屋っていうだけで、やっぱりここがどこか分からない……。
「あたま、いた……」
ぽつりと呟いた私の声は、やけに枯れていた。
体が熱い。
そのせいか、体の震えが止まらなかった。
だとしたら寒いのか。
でも熱い。
しんどい。
ツラい。
寒い。
そう思って、また枕へ頭を戻せば、少し呼吸がラクになったような気がした。
でも、ラクになった気がしただけで、ツラさは変わらない。
風邪……?
分からない。
とにかくツラい。
しばらく体を震わせながら布団を体に巻き付けていると、──コンコン、と、その部屋の扉のノックの音がした。瞼を開けるのも、ツラい。
「凪? 入るね。起きてる?」
扉の開く音が聞こえた。
私の元に誰かが近づいてくる。
「凪?」
誰かが私を見下ろしている。
目がぼやけて、よく見えない。
誰だろう、この人。
女の人っていうのは分かる。
そもそも、凪って、誰だろう?
そう思っていると、「凪?」と、声のトーンが変わったその人が私の頬にふれた。
「……熱?凪、しんどい?」
誰か分からないけど、優しく、焦ってはいるけど心地いいトーンで聞かれるから、私は小さく頷いた。
「ちょっと待ってね、体温計持ってくるから…」
看護師か、誰かだろうか。
分からない。
いったん、離れた女の人は体温計と──、お茶が入っているらしいグラスのコップを持ってきた。
体を起こし私にお茶を飲ませてくれたその人は、もう1度私を寝かせると、「服めくるわね」とワキに体温計を差し込んだ。
何十秒かして、音がなり、髪の短い女の人がワキから取り出しそれを見ると、顔を顰めていた。
「38度、……薬持ってくるわ、何か食べましょう」
「あ、の……」
「なに?」
「……だれ……です、か」
私の質問に、その人は優しく笑うと、私の頭を撫でた。
「私はあなたのお母さん。あなたは記憶喪失で昔のことを覚えてないの。ここは安全な場所だから怖がることは無いからね」
そう言われ、あんまり理解できなかったけど、悪い人ではなさそうだから。私はもう一度身を任せるように瞼を閉じた。
お母さんと名乗るその人は、誰かと電話をしているようだった。
「もしもし?潮くん?」と、そんな言葉が聞こえたから。
「凪が熱を出して──、昨日の──、」
何話してるんだろう?
分からない。
だけど「もうすぐ潮くんっていう男の子が来るけど、その子も凪の味方だからね」と、お母さんらしい人が私に言ってきた。
うしお……?
うしお、
どこかで、聞いたことがあるような気がして……。
重いというよりも、ズキズキというか、動けば脳が揺れる感覚がしてとても気持ち悪くて。
息を出せば、やけに喉が熱く。吐息も熱かった。
簡単言えば、ツラい……。
体を動かせない。
体を動かそうとすれば、関節や皮膚が痛くて、起き上がるのもしんどくて。
それでも、ここはどこだろう?っていう気持ちが強かった。見慣れない天井。頭が上手く働いていないせいか、自分がどこにいるかも分からなかった。
布団にいることは分かる、でも、それだけしか分からない。
頑張って全身が痛む体を起こしても、ここがどこかの部屋っていうだけで、やっぱりここがどこか分からない……。
「あたま、いた……」
ぽつりと呟いた私の声は、やけに枯れていた。
体が熱い。
そのせいか、体の震えが止まらなかった。
だとしたら寒いのか。
でも熱い。
しんどい。
ツラい。
寒い。
そう思って、また枕へ頭を戻せば、少し呼吸がラクになったような気がした。
でも、ラクになった気がしただけで、ツラさは変わらない。
風邪……?
分からない。
とにかくツラい。
しばらく体を震わせながら布団を体に巻き付けていると、──コンコン、と、その部屋の扉のノックの音がした。瞼を開けるのも、ツラい。
「凪? 入るね。起きてる?」
扉の開く音が聞こえた。
私の元に誰かが近づいてくる。
「凪?」
誰かが私を見下ろしている。
目がぼやけて、よく見えない。
誰だろう、この人。
女の人っていうのは分かる。
そもそも、凪って、誰だろう?
そう思っていると、「凪?」と、声のトーンが変わったその人が私の頬にふれた。
「……熱?凪、しんどい?」
誰か分からないけど、優しく、焦ってはいるけど心地いいトーンで聞かれるから、私は小さく頷いた。
「ちょっと待ってね、体温計持ってくるから…」
看護師か、誰かだろうか。
分からない。
いったん、離れた女の人は体温計と──、お茶が入っているらしいグラスのコップを持ってきた。
体を起こし私にお茶を飲ませてくれたその人は、もう1度私を寝かせると、「服めくるわね」とワキに体温計を差し込んだ。
何十秒かして、音がなり、髪の短い女の人がワキから取り出しそれを見ると、顔を顰めていた。
「38度、……薬持ってくるわ、何か食べましょう」
「あ、の……」
「なに?」
「……だれ……です、か」
私の質問に、その人は優しく笑うと、私の頭を撫でた。
「私はあなたのお母さん。あなたは記憶喪失で昔のことを覚えてないの。ここは安全な場所だから怖がることは無いからね」
そう言われ、あんまり理解できなかったけど、悪い人ではなさそうだから。私はもう一度身を任せるように瞼を閉じた。
お母さんと名乗るその人は、誰かと電話をしているようだった。
「もしもし?潮くん?」と、そんな言葉が聞こえたから。
「凪が熱を出して──、昨日の──、」
何話してるんだろう?
分からない。
だけど「もうすぐ潮くんっていう男の子が来るけど、その子も凪の味方だからね」と、お母さんらしい人が私に言ってきた。
うしお……?
うしお、
どこかで、聞いたことがあるような気がして……。