キミは海の底に沈む【完】
令和4年8月13日
〝令和2年8月5日
潮くんと一緒に買い物に行った
潮くんは私にかみどめを買ってくれた
明日は潮くんと日帰りの旅行にいく
かみどめをつけて行こう。楽しみだなぁ〟
私は2年前の日記を見つめていた。
ペラペラとめくり、幸せな日々が詰まった日記を読んでいると自然にニヤけていて、ああ、こんなことがあったなぁと頬が緩む。
昔と変わらない。
私の日記の中は潮くんの名前ばっかりだった。
この2年間、私は記憶を失うことがなかった。私自身、当時の事故の事を許したのか分からないけど、記憶は保つことは出来てるし、今ではもう潮くんが私を虐めていたことも完璧に思い出している。
「赤信号は渡るんだよね?」って潮くんをからかったりもする。でも潮くんが顔を真っ青にして土下座するぐらいに謝ってくるから、もう虐めの事に関しては言わなくなった。
こうして日記を書いているのは、自分が許せない時が来るかもしれないから
けど、もう記憶を失うことはないと思う。潮くんがそばにいる限り、そんな気がする。
そんな気はするけど、〝おねがいだからわすれないで〟と、いつも思ってる。
「凪?まだ寝てねぇの?」
日記を読んでいると、たった今、潮くんが寝室に入ってきて。
「あ、ごめんなさい…日記読んでた」
「謝る事ねぇけど。ちゃんと寝ろよ?」
そう言って、潮くんは慣れたようにごろん、とベットの上に横になった。
「大丈夫だよ。昔と違って睡眠時間が短くても」
「俺が大丈夫じゃない。ほら、明日は盆で凪の家に行くんだから早く寝ろ」
明日は、お盆だから実家に帰って、お父さんとお姉ちゃんのお線香を立てるから。
もう、私はお姉ちゃんのこともお父さんの事も思い出していた。思い出して「お姉ちゃんは泳げなかったの」と潮くんに涙が枯れるぐらい泣きついた日も、日記の中に入っている。
「帰るの歩いて10分の距離だよ」
それに、週に4回は、心配性なお母さんと5分でも会ったりしているから。
クスクスと笑った私は、私の事を心配してくれる潮くんに幸せを感じながら、「今日の分書いてから寝るね」と、微笑んだ。
寝室の机の上で書いていると、「まだこれ使ってんの?」と、机の上に置いていたバレッタを見て呟いた。
このバレッタは初めて潮くんが買ってくれたもので。
「うん、明日つけていくから」
「嬉しいけど、新しいの買おうか?」
「ううん、これがいいの」
くすくすと笑いながら日記を閉じ、潮くんがいるベットの中に私も入った。
「もう書き終わったのか?早いな」
そう言って潮くんは、私を引き寄せた。
「書く内容は決まってたから」
「そうか」
「明日、那月くんに会うの?」
「あいつとは火曜日会う約束してる」
ベットの中で手を繋ぐ行為も、昔とは変わらない。
家を出て、高校を卒業後、私は潮くんと2人で住むことになった。そんな私たちの住むマンションの一室には、所々に張り紙が貼られてある。
万が一、忘れた時のために。
〝なぎとうしおのしんしつ〟
そう潮くんが紙に書いているのを見た時、実家にある私の部屋の扉に貼られていた〝なぎのへや〟が、潮くんが書いたものだと初めて知った。
潮くんと一緒に買い物に行った
潮くんは私にかみどめを買ってくれた
明日は潮くんと日帰りの旅行にいく
かみどめをつけて行こう。楽しみだなぁ〟
私は2年前の日記を見つめていた。
ペラペラとめくり、幸せな日々が詰まった日記を読んでいると自然にニヤけていて、ああ、こんなことがあったなぁと頬が緩む。
昔と変わらない。
私の日記の中は潮くんの名前ばっかりだった。
この2年間、私は記憶を失うことがなかった。私自身、当時の事故の事を許したのか分からないけど、記憶は保つことは出来てるし、今ではもう潮くんが私を虐めていたことも完璧に思い出している。
「赤信号は渡るんだよね?」って潮くんをからかったりもする。でも潮くんが顔を真っ青にして土下座するぐらいに謝ってくるから、もう虐めの事に関しては言わなくなった。
こうして日記を書いているのは、自分が許せない時が来るかもしれないから
けど、もう記憶を失うことはないと思う。潮くんがそばにいる限り、そんな気がする。
そんな気はするけど、〝おねがいだからわすれないで〟と、いつも思ってる。
「凪?まだ寝てねぇの?」
日記を読んでいると、たった今、潮くんが寝室に入ってきて。
「あ、ごめんなさい…日記読んでた」
「謝る事ねぇけど。ちゃんと寝ろよ?」
そう言って、潮くんは慣れたようにごろん、とベットの上に横になった。
「大丈夫だよ。昔と違って睡眠時間が短くても」
「俺が大丈夫じゃない。ほら、明日は盆で凪の家に行くんだから早く寝ろ」
明日は、お盆だから実家に帰って、お父さんとお姉ちゃんのお線香を立てるから。
もう、私はお姉ちゃんのこともお父さんの事も思い出していた。思い出して「お姉ちゃんは泳げなかったの」と潮くんに涙が枯れるぐらい泣きついた日も、日記の中に入っている。
「帰るの歩いて10分の距離だよ」
それに、週に4回は、心配性なお母さんと5分でも会ったりしているから。
クスクスと笑った私は、私の事を心配してくれる潮くんに幸せを感じながら、「今日の分書いてから寝るね」と、微笑んだ。
寝室の机の上で書いていると、「まだこれ使ってんの?」と、机の上に置いていたバレッタを見て呟いた。
このバレッタは初めて潮くんが買ってくれたもので。
「うん、明日つけていくから」
「嬉しいけど、新しいの買おうか?」
「ううん、これがいいの」
くすくすと笑いながら日記を閉じ、潮くんがいるベットの中に私も入った。
「もう書き終わったのか?早いな」
そう言って潮くんは、私を引き寄せた。
「書く内容は決まってたから」
「そうか」
「明日、那月くんに会うの?」
「あいつとは火曜日会う約束してる」
ベットの中で手を繋ぐ行為も、昔とは変わらない。
家を出て、高校を卒業後、私は潮くんと2人で住むことになった。そんな私たちの住むマンションの一室には、所々に張り紙が貼られてある。
万が一、忘れた時のために。
〝なぎとうしおのしんしつ〟
そう潮くんが紙に書いているのを見た時、実家にある私の部屋の扉に貼られていた〝なぎのへや〟が、潮くんが書いたものだと初めて知った。