キミは海の底に沈む【完】
そのファイルの中では、どうやら約4年の月日が流れているようだった。このファイルを書き始めたのは中学一年生の時らしく。今は高校2年生の夏らしい。
読むのに1時間、それ以上はかかったと思う。たった3行書いている日があれば、10行書いている日もある。
確かに私は潮と出会っているようだった。
それも、随分前から。
必ず1ページには潮の名前が出てきた。
〝令和元年5月25日
潮くんから告白される
潮くんはとても優しくていい人
「ずっと一緒にいる」と
言ってくれた潮くんを信じようと思う
だけど私は信じることも覚えてないんだろうな〟
〝令和元年5月26日
私が記憶を失う病気なんて信じられない。
でも確かに覚えていない。
この日記は本当に私が書いたものなのだろうか?
潮っていう人が「好きだよ」と言ってきた。
記憶できない私を好きってどうなんだろう〟
〝令和元年5月27日
全部見るのも初めてばかり
こんな世界は知らない
学校の授業が分からない
だけど潮くんが教えてくれた。
一昨日の私の言う通り
潮くんは優しい人なのかもしれない〟
〝令和元年5月28日
潮くんの知り合いとあった
私の事も知ってるみたいだった
私は潮くんを信じようと思う
だからここには書かない〟
かすかに、1行だけ、文を消している部分があった。
どの日付にも、
ほぼファイルの中は潮の名前がある。
本当に私は潮と一緒にいるんだな…。
ずっと私は潮のことを、〝潮くん〟って呼んでるみたいで…。
潮くん…。
私の彼氏…。
毎日毎日、記憶を失ってしまう私のそばに、ずっといてくれて…。
ファイルを見る限り、潮くんは本当にいい人みたいだった。
〝令和2年7月14日
ウシオくんが泣いていた
私が傷つけた
7月15日の私へ
どうかウシオくんを泣かせないでほしい〟
それなのに、昨日の私は潮くんを傷つけてしまったらしい。泣かせてしまったらしい。
その理由はどこにも書いていない…。
「読めた?」
そう訪ねてくる潮くんに目を向けた。もう私の目は戸惑っていなかった。
うん、と、頷いた私のそばに近づいてきた彼は、「落ち着いてよかった」と笑顔を向ける。
この笑顔は、どういう気持ちで向けられているのだろうか…。だってこんなにも記憶を失ってしまう私を大事にしてくれる彼を、さっきまで〝怖い〟だなんて…。
「…ごめんなさい…」
「なにが?」
「朝、ちゃんと読めば良かった…。あなたのこと、怖いって思ってごめんなさい…」
「いいよ。気づかなかった俺が悪かったから」
「あの…」
「ん?」
「昨日、何があったのでしょうか」
「…」
「わたし、あなたに酷いことを言ったのですか?」
不安がちに言えば、またさっきの外のように彼の手が伸びてくる。
さっきは柔らかく頭を撫でるだけだった。
だけど今度は腕で頭を包み込むように抱きしめてきた。
私はそれを嫌だと思わなかった。
「違う、酷いことをしたのは俺だよ」
「…え…?」
「俺が昨日の凪に書かせたんだな、ごめんな」
「…」
「好きだよ凪、これからもずっと」
彼はいったい、何回、私に好きと言ってくれのだろうか?
もし、記憶が失わなければ、私も潮くんのことを大好きと、言うんだろうな…。
読むのに1時間、それ以上はかかったと思う。たった3行書いている日があれば、10行書いている日もある。
確かに私は潮と出会っているようだった。
それも、随分前から。
必ず1ページには潮の名前が出てきた。
〝令和元年5月25日
潮くんから告白される
潮くんはとても優しくていい人
「ずっと一緒にいる」と
言ってくれた潮くんを信じようと思う
だけど私は信じることも覚えてないんだろうな〟
〝令和元年5月26日
私が記憶を失う病気なんて信じられない。
でも確かに覚えていない。
この日記は本当に私が書いたものなのだろうか?
潮っていう人が「好きだよ」と言ってきた。
記憶できない私を好きってどうなんだろう〟
〝令和元年5月27日
全部見るのも初めてばかり
こんな世界は知らない
学校の授業が分からない
だけど潮くんが教えてくれた。
一昨日の私の言う通り
潮くんは優しい人なのかもしれない〟
〝令和元年5月28日
潮くんの知り合いとあった
私の事も知ってるみたいだった
私は潮くんを信じようと思う
だからここには書かない〟
かすかに、1行だけ、文を消している部分があった。
どの日付にも、
ほぼファイルの中は潮の名前がある。
本当に私は潮と一緒にいるんだな…。
ずっと私は潮のことを、〝潮くん〟って呼んでるみたいで…。
潮くん…。
私の彼氏…。
毎日毎日、記憶を失ってしまう私のそばに、ずっといてくれて…。
ファイルを見る限り、潮くんは本当にいい人みたいだった。
〝令和2年7月14日
ウシオくんが泣いていた
私が傷つけた
7月15日の私へ
どうかウシオくんを泣かせないでほしい〟
それなのに、昨日の私は潮くんを傷つけてしまったらしい。泣かせてしまったらしい。
その理由はどこにも書いていない…。
「読めた?」
そう訪ねてくる潮くんに目を向けた。もう私の目は戸惑っていなかった。
うん、と、頷いた私のそばに近づいてきた彼は、「落ち着いてよかった」と笑顔を向ける。
この笑顔は、どういう気持ちで向けられているのだろうか…。だってこんなにも記憶を失ってしまう私を大事にしてくれる彼を、さっきまで〝怖い〟だなんて…。
「…ごめんなさい…」
「なにが?」
「朝、ちゃんと読めば良かった…。あなたのこと、怖いって思ってごめんなさい…」
「いいよ。気づかなかった俺が悪かったから」
「あの…」
「ん?」
「昨日、何があったのでしょうか」
「…」
「わたし、あなたに酷いことを言ったのですか?」
不安がちに言えば、またさっきの外のように彼の手が伸びてくる。
さっきは柔らかく頭を撫でるだけだった。
だけど今度は腕で頭を包み込むように抱きしめてきた。
私はそれを嫌だと思わなかった。
「違う、酷いことをしたのは俺だよ」
「…え…?」
「俺が昨日の凪に書かせたんだな、ごめんな」
「…」
「好きだよ凪、これからもずっと」
彼はいったい、何回、私に好きと言ってくれのだろうか?
もし、記憶が失わなければ、私も潮くんのことを大好きと、言うんだろうな…。