激情を抑えない俺様御曹司に、最愛を注がれ身ごもりました
「あっ……」
手を引かれて反射的に声をかけようとしたけれど、出かけた声を呑み込む。
なんで手なんか繋ぐのかと訊くのは、もう野暮な質問に思えたのだ。
どうせ返ってくるのは『婚約者代理の務めだろ』という言葉。
それ以上でも以下でもない。
公共の場で知り合いに出会えば、私を婚約者だと紹介したいと香椎さんは言っていた。
こうして外を歩くときは、婚約者がいるということをアピールする絶好のチャンスということだ。
この関係を承諾した以上、私は彼の婚約者として振る舞うのが当然のこと。
そこに私個人の感情は必要ない。
駐車場から建物内に入っていき、香椎さんは吹き抜けになっている施設内を見上げる。
その姿をとなりから見上げ、美しい横顔に改めてどきりとさせられた。
綺麗に流れる黒髪に、すっと高い鼻梁。端整な人はどの角度から見ても完璧なのだと感心する。
私なんかがとなりを歩いてつり合う相手ではないから、どうしても周囲の目が気になってしまうのは仕方ない。
こうして歩いていても、あちこちから視線を感じる。
香椎さんに向けられる熱い眼差しと、一緒にいる私には疑問の視線が突き刺さっていく。
なんであんな女性と一緒?そういう風に思うのだろう。それは当たり前だ。私自身ですらそう思える。