激情を抑えない俺様御曹司に、最愛を注がれ身ごもりました


 翌日。

 私は朝からこの上ない後悔に苛まれていた。


「ちょ、京香ちゃん、あの、ちょっと痛いな」

「えっ、あっ! すみません!」


 今日最後の予約のお客様。今は定期の爪磨きの予約を入れてくださる八木沼さんの施術中。

 痛いと言われて慌てて手を離す。どうやら固定するために添えていた指に無意識に力がこもっていたらしく、私の爪先が少し刺さってしまっていたようだ。


「ごめんなさい! 痛かったですよね」

「いや、全然大丈夫だよ! 気にしなくて。むしろ痛いくらいが好きだったりして」


 私のミスを八木沼さんはふざけたことを言って笑い飛ばしてくれる。

 それでも「すみません……」と謝り、いけないいけない!と気を引き締めた。

 昨日から考え込みすぎて、今日は頭がずんと重い。これからどうしたらいいのか。頭の中はそればかりだ。

 ちょうど一か月ほど前、引き払わずそのままにしておいた元々の部屋の契約を解除したばかりだった。

 なぜあのタイミングで解約してしまったのか。

 まだ以前住んでいた部屋をそのままにしていると透哉さんに話すと解約を勧められた。

 使ってない部屋ならもう必要がないとはっきり言われ、それもそうだなと思って契約を解除したのだ。

 あのときの私は、透哉さんと一緒に歩んでいく未来しか考えていなかった。

 まさか、早くあのマンションから出ていかないといけないと悩む日がくるなんて考えてもみなかった。

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