激情を抑えない俺様御曹司に、最愛を注がれ身ごもりました
「しているが、そんな〝まさか〟なことか? 婚約者として当然のことだろう」
「当然って、私は代理で、名前ばかりの婚約者っていうそういう解釈で──」
「このあと一件、依頼人と会う約束があるんだ。時間も押しているから、話はまた次回会ったときにしよう」
「え、あ、ちょっと──」
引き留めるも虚しく、香椎さんは振り返りもせず肩越しにひらりと手を振り立ち去っていく。
このままでは絶対にいけないとハッとし、慌てて席を立ち上がり仕立てのいいスーツの背中を追いかける。
ラウンジを出たところで追いつき、勢い任せに「ちょっと待って!」とその腕を掴んだ。
「なんだ、追いかけてくるほど納得がいかないか」
「だって、納得できる話だと思いますか? 会ってまだ二度目の人と、いきなり同居するってそんな話あります? そんな、よく知りもしない人と」
もう自ら二度目と言ってしまったことも気にしていられない。
私に引き留められても香椎さんの余裕は健在で、詰め寄った私をフンと鼻で笑った。
「わかった。それなら知ればいいということだな」
「え?」
「近いうちに一度食事でもしよう。また連絡する」
香椎さんはそう言って再び私の前を立ち去っていく。
かと思えば「あ……」と何かを思い出したように立ち止まり、こちらを振り返った。
「大神田さんには、お互いに縁談は進めない方向で話がまとまったと話してくれ」
そう言って再び颯爽と歩いていった。
え、ちょっと……。
取り残された私は、ひとり混乱したままその場にしばらく佇んでいた。