激情を抑えない俺様御曹司に、最愛を注がれ身ごもりました
4、偽装婚約者との同棲生活
六月下旬。
梅雨の中休みという晴れの日は、猛烈な蒸し暑さを感じる。
アスファルトからの照り返しもひどく、自宅マンションから出て迎車のタクシーに乗り込むだけでじわりと汗ばんだ。
後部座席に座った私の横には、旅行用ボストンバッグがひとつ。
側から見ればどこか旅行に行くようにしか見えないけれど、今日はいよいよ新しい住まいに引越しの日だ。
香椎さんから引越しについての詳細連絡が入ってきたのは、あの食事会から一週間ほどが経ってからだった。
新居の住所に物件詳細、そんな事務的な案内文の最後に、私の動ける日の候補日を挙げてほしいという要望と、『手ぶらで来てもらって構わない』というメッセージが入っていた。
家具や生活に困らない設備は整えてもらっているらしく、引越し業者に依頼して何か大きなものを運び出す必要はなかった。
というのも、今借りているワンルームマンションを引き払う予定はない。
今回の同居は、代理婚約者という立場でのこと。
いつその役割を終え、元の生活に戻るかはわからない。
もしかしたらほんの少しの期間で同居の必要がなくなり、帰ってもよくなるかもしれないのだ。
そうなったとき、元の自分の家を引き払っていたら、路頭に迷ってしまう。
特に香椎さんに確認を取っているわけではないけれど、自分で決めて今の住まいはそのまま保存するようにした。